自業自得記録地獄

主にACミランとセリエAに関する備忘録。

21-22 ACミラン総括

 19-20シーズン後半の絶好調を継続した前半戦に対して、後半戦は離脱者の多さと連戦の疲労に苦しみながらも、最後の5試合で挽回し、9シーズンぶりの2位、8シーズンぶりのCL出場権を獲得した20-21シーズン。21-22シーズンの目標はCL出場権と昨季の勝ち点を超えること。

 将来性がある選手、経験豊富な選手を限られた予算内で獲得する補強方針を今季も継続するなかで、まず、ミランの提示に対して過度な昇給を希望するドンナルンマとチャルハノールをフリーで放出。対して、新守護神としてフランス王者になったリールからメニャンを獲得し、昨季終盤に輝いたブラヒムがローンを延長し新たに10番を背負う。そして、イブラとターンオーバーできるCFとして、ワールドカップとCLを制覇した経験を持つジルーが加入。昨冬の加入からすぐに活躍したトモリの買取オプションも行使したほか、ダロトの買取に失敗したSB兼SHに経験豊富なフロレンツィを獲得する。

 

今季の変遷

 

 開幕のサンプドリア戦は新守護神と新10番が今季の飛躍を予感させる活躍を見せると、2節はジルーがサン・シーロデビューでドッピエッタ。期待の新戦力が結果を残すなかで、移籍市場終盤にケシエのバックアッパーとしてバカヨコが18-19シーズン以来の再加入。また、2列目の強化としてクロトーネから苦労人メシアスを獲得して補強を終了。

 9月のインターナショナルマッチウィーク明けはラツィオリヴァプールユヴェントスヴェネツィア、スペツィア、アトレティコアタランタというハードな7連戦。ラツィオに快勝し、ミラン史上初となる2季連続開幕3連勝を飾り、8年ぶりのCL、アンフィールドでのリヴァプール戦に臨む。真っ向勝負を挑んだ結果、クオリティに屈したが、ある程度の自信を得たと同時に、世界最高峰のレベルを体感することができた。

 アリアンツ・スタジアムでのユヴェントス戦はトモリの右サイドバック起用という奇策が失敗するが、ケアーの負傷でカルルが右サイドバックに入り、トモリがCBに戻ると試合のペースを掴み、逆転まであと一歩のところまで迫った。ヴェネツィアには途中出場のテオとサレマの活躍で、スペツィアにはダニエル・マルディーニセリエA初先発初ゴールで、疲労が垣間見えるなかで若い選手が躍動し格下相手に着実に連勝を収める。

 サン・シーロにCLアンセムが帰ってきたアトレティコ戦は素晴らしい立ち上がりからケシエの退場で劣勢に変わったが、耐えていたアディショナルタイムに疑問の残る判定でPKを献上し逆転負け。最後のアタランタ戦は計算されたキックオフの奇襲、マンツーマンプレス、カウンターによる得点とらしさを爆発させて勝利。

 イブラ、クルニッチ、フロレンツィ、メシアス、バカヨコら負傷者が相次いだが、レビッチ、レオン、ブラヒム、サレマの機動力重視の前線と中盤の核となったトナーリがエンジンとなり、全勝のナポリに次ぐ2位で再びインターナショナルマッチウィークに突入する。

 

 10月のインターナショナルマッチウィークを経て今度はエラス・ヴェローナ(H)、中2日ポルト(A)、中3日ボローニャ(A)、中2日トリノ(H)、中4日ローマ(A)、中2日ポルト(H)、中3日インテル(H)の7連戦。イブラとクルニッチが復帰したが、テオとブラヒムがCovid-19陽性。おまけに新守護神として素晴らしい活躍をしてきたメニャンが手首の靭帯損傷で手術を行い、フリーのミランテを緊急補強する事態に。

 エラス・ヴェローナ戦は前半に2失点を喫し、レビッチも負傷交代する最悪の展開だったが、後半から構想外のカスティジェホに出番が与えられると、ハードワークでチームにエネルギーをもたらし、同点PK獲得と逆転オウンゴールを誘発した。試合後の涙は印象的な場面となった。

 ポルトには完敗を喫してCL3連敗、ボローニャ戦は10人の相手に2点差を追いつかれ、べナセルのミドルシュートでなんとか勝ち切り、トリノ戦はセットプレーの1点を守り切るという不安定な試合が続く。ローマ戦はビルドアップの狙いがハマり、イブラのセリエA通算150得点で勝利するが、テオが退場しダービーで出場停止になってしまう。

 勝利が欲しかったポルトとのリターンマッチは序盤の劣勢から後半は修正し、オウンゴールで追いつくが逆転にまでは至らない。最後のインテル戦は両チーム疲労困憊で引き分け。タタルシャヌがPKを止める活躍で、ミランからすれば離脱者の多いなかでの引き分けは悪くない結果となった。

 タタルシャヌ、バロ=トゥーレ、カスティジェホといった控え選手たちの奮闘により、カンピオナートでは不格好でも勝ち点を積み重ねることが継続できた結果、開幕12試合10勝2分で32ポイントを獲得しクラブ新記録を更新した。一方、CLはポルトの練度に苦戦し4試合で1勝もできない苦しい状況に陥った。


 11月のインターナショナルマッチウィーク明けはフィオレンティーナアトレティコサッスオーロジェノアサレルニターナリヴァプールウディネーゼの7連戦。ロマニョーリとメシアスが復帰した一方、カラブリア、トモリ、レビッチが負傷。フィオレンティーナ戦は決定機逸と自陣ゴール近くのミスにより撃ち合いに負け、カンピオナートの無敗が途切れる。メンタルの切り替えが求められたアトレティコ戦はメシアスがCLデビューで決勝点を奪いグループステージ突破の可能性を見出す。しかし、サッスオーロ戦はビルドアップのミスが頻発し、メニャンが復帰したもののカンピオナートで連敗をしてしまう。

 シェフチェンコ監督との対戦になったジェノア戦はトモリが復帰するが、ケアーが試合早々に膝を負傷するアクシデント。それでも、初先発のメシアスのドッピエッタで快勝し連敗を最小限に留める。続くサレルニターナ戦の快勝でカンピオナートでは首位に立ち、グループステージ突破をかけたリヴァプール戦を迎える。セットプレーから先制するが、メンバーを落とした相手に主導権を握られると奪い返すことができずに逆転負け。連戦最後のウディネーゼ戦は人選と戦術のミスが痛手となったが、アディショナルタイムの同点弾で辛くも勝ち点1を持ち帰った。

 1週間空き、離脱者と連戦に苦しむナポリとの試合では、リスク回避のロングボールとリスク覚悟の同数ハイプレスで挑んだが、セットプレーによる失点と終盤のゴール取り消しが響いて3敗目を喫する。年内最終戦となったエンポリ戦は積極的な攻撃に守備は苦戦したが、攻撃ではケシエのトップ下起用が奏功し、勝利で2021年を終えた。

 カラブリアとレビッチを欠き、ケアー、ジルー、レオンと負傷者が相次ぎ、ミスの増加に伴い失点も増加する苦しい期間となり、8季ぶりのCLはグループステージ最下位で敗退したが、カンピオナートでは前半戦を首位インテルと4ポイント差の2位で折り返すことになった。

 

 

 クリスマス休暇を経て、2022年の始まりはオミクロン株が猛威を振るい、トモリ、カラブリアロマニョーリが感染。なおかつ、アフリカネーションズカップでケシエ、べナセル、バロ=トゥーレも欠く緊急事態でローマ戦を迎える。しかし、休暇でリフレッシュしたことでコンディションが良く、強度を取り戻して快勝。ヴェネツィア戦はテオとレオンが蹂躙して快勝。コッパ・イタリアジェノア戦はセットプレーから先制を許し延長戦を戦うが、多くの決定機を作り勝ち切る。しかし、トモリが膝を負傷して離脱。

 トナーリを出場停止で欠いたスペツィア戦は多くの決定機を作りながら、相手GKの大活躍で1点しか奪えず、相手の選手交代による変化に対応できず同点にされ、終盤に主審の判断ミスで得点が取り消され、ミスから失点し逆転負け。ユヴェントス戦は互いに守備が堅くスコアレスドローで3位に転落。イブラが前半途中で負傷交代し、結果的に今季最後の先発出場となった。

 負傷明けのレオンが攻撃を牽引し、選択肢が限られた中盤はトナーリが軸となり、経験不足なカルルとガッビアをメニャンとともに支えたこの期間は、シーズンを振り返る今となっては高く飛ぶための助走のように感じる。


 特殊な1月末のインターナショナルマッチウィーク明けは首位インテルとのダービー。劣勢でもメニャンの活躍で1失点に抑えると、ブラヒムが流れを変え、ジルーのドッピエッタで逆転勝利を掴み、インテルとの勝ち点差は1に。コッパ・イタリア準々決勝のラツィオ戦もジルーのドッピエッタを含む4発快勝。サンプドリア戦は出場停止のテオに代わってフロレンツィが左サイドバックで効果的なプレーを見せ、メニャンのミサイルパスからレオンが決めて暫定首位に立つ。

 しかし、最下位のサレルニターナ戦、続くウディネーゼ戦では先制しながらも勝ち切れず2試合連続引き分けでナポリに暫定首位の座を奪われる。ミッドウィークのインテルとのコッパ・イタリア準決勝ファーストレグでは勝てなかったが最低限の守備強度を取り戻し、迎えたナポリとの直接対決ではカルルとトモリがオシムヘンを封じ、ジルーのアウェイ初ゴールでピオーリがスパレッティ相手に初勝利を挙げ、暫定首位に返り咲くと、エンポリ戦はカルル、カリアリ戦はべナセルのミドルシュートでウノゼロ3連勝を飾り、正真正銘の首位に立った。

 スクデット争いのライバルとの直接対決に勝利する一方、下位には取りこぼし、得点力が急落したこの期間は、イブラとレビッチの離脱でジルーとレオンが全試合に先発し、アフリカネーションズカップでコンディションを上げたべナセルが存在感を高めた。そして、カルルがCBのレギュラーを掴み始める。

 

 3月のインターナショナルマッチウィークを経て再開。4月からスタジアムの観客収容率がコロナ禍以前の100%に戻されるが、ボローニャ戦はシュート33本が空砲に終わり、トリノ戦はブレーメルを突破できず2試合連続スコアレスドロースクデットに向けて暗雲が垂れ込めるなかで迎えたジェノア戦は4-1-2-3が機能してサレルニターナ戦以来8試合ぶりの複数得点、公式戦7試合連続無失点で勝利。しかし、コッパ・イタリア準決勝セカンドレグではチャンスを生かせず、判定にも恵まれずインテルに敗れ、コッパ・イタリア優勝の夢は破れる。

 カンピオナートは最後の5試合に突入。ラツィオ戦もインテル戦同様、開始早々に失点するが、アディショナルタイムにレビッチとイブラのプレスからトナーリが決めて劇的な逆転勝利を収めてCL出場権を得られる4位以内が確定する。ミッドウィークに延期分の試合を行ったインテルが敗れたことで首位に立って迎えたフィオレンティーナ戦も終盤にレビッチとイブラのプレスからレオンが決めて勝利。インテル勝利の結果を受けて戦ったエラス・ヴェローナ戦は先制されるがレオンの2アシストでトナーリがドッピエッタを記録して逆転勝利。ホーム最終戦アタランタ戦は痺れるマンツーマンゲームをレオンとテオのカウンターで制する。引き分け以上で優勝の最終節はアウェイながらスタジアムを占拠するミラニスタの前でサッスオーロ相手に序盤から猛攻を浴びせ、前半で3点を奪い快勝。

 最後の5試合のマーク、デュエル、カバーの集中力は凄まじく、強いチームの勝ち方、スクデットに相応しい強さを身に付け、最終的にカンピオナートは16試合無敗の6連勝、最後の11試合は僅か2失点。見事に11年ぶり19回目のスクデットを獲得した。

 

個人評価

AC Milan - Squad statistics (Detailed view) | Transfermarkt

 

GK

 

 #1 Ciprian Tatarusanu

 メニャンの負傷によりセリエA6試合、CL3試合に先発。セリエAの6試合で10失点、無失点が1試合だけという結果はタタルシャヌだけの責任ではないが良い数字ではない。それでも、ダービーでのPKストップはスクデットに貢献したと言える大きなプレーだった。

 

 #16 Mike Maignan

 セリエA1年目でセリエA最優秀GKに輝いたマジック・マイク。圧倒的な身体能力による超反応やアクロバティックなセービングで何度もピンチを救っただけでなく、ビルドアップではミスなくパス回しに参加し、両足で高精度かつ飛距離も抜群なパスを出す、攻守における戦術上のキーマン。リーダーシップの高さも評判で、コーチングも素晴らしく、攻撃時のFKにも指示を出していたのはミラニスタを驚かせた。本当にミランに来てくれてありがとう。これからは人種差別の被害に遭わないことを願う。

 

 #77 Alessandro Plizzari

 前半戦は膝の怪我の治療に費やし、1月にセリエBレッチェにローンで加入し3試合に出場。レッチェセリエB優勝を果たした。

 

 #83 Antonio Mirante

 メニャンとプリッツァーリの負傷によりフリートランスファーで緊急加入も出番はなし。タタルシャヌとともにベンチでイケオジコンビを結成。

 


www.youtube.com

 

CB 

 

 #13 Alessio Romagnoli

 トモリもケアーも欠場があった前半戦はそれなりに出場機会を得て、それなりのパフォーマンスを見せたが、後半戦は年始のCovid-19感染や内転筋の怪我で先発は5試合に留まり、終盤戦は完全にカルルにポジションを奪われた。カピターノとして11年ぶりのスクデットを掲げたが今季で契約満了で退団。高騰しすぎた年俸は中華ミランの代償。今までありがとう。どこに行くか未定だがアッズーリに復帰できるくらいの存在になれることを願う。

 

 #20 Pierre Kalulu

 怪我無く全試合に帯同し、後半戦のMVPと言っても過言ではない活躍を見せた怪物DF。前半戦は両SBの控えに過ぎなかったが、ケアーの長期離脱、ロマニョーリとトモリの負傷により後半戦は主にCBとして先発。とりわけ、28節ナポリ戦でオシムヘンを抑える大活躍以降は全試合に先発し、トモリとの爆速コンビで11試合2失点の堅守を築いた。予測と足の速さによるインターセプトが大きな武器になった。昨季はCBとしてはクロスに対するマーキング、SBとしては攻撃参加時の質に課題が残ったが、今季は昨季のような単純なマーキングミスが減少し、クロスの質が大きく向上した。ジェノア戦のレオンへのクロスは素晴らしかった。試合を経験する度に成長する彼が来季はどのような姿を見せてくれるのか楽しみだ。

 

 #23 Fikayo Tomori

 2900万€の買取オプション行使という決断を全く後悔させず、むしろ安い買い物だった思わせる活躍を今季も披露した。多少の波はあるが、総じてハイアベレージなパフォーマンスで、爆速カバーやシュートブロックでピンチを防いだ。届かない、追いつかないであろうボールへ足が伸びる場面はもはや見慣れた光景になった。トモリ出場時の平均失点は0.66。なんとかワールドカップのメンバーに食い込んでほしい。

 

 #24 Simon Kjaer

 EUROでサッカー界の英雄となって迎えた前半戦はトモリとのコンビを基本としながらロマニョーリとのターンオーバーも行われていたが、12月初めのジェノア戦で左膝前十字靭帯損傷と内側側副靱帯損傷の大怪我を負い、今季終了。デンマーク代表のキャプテンでもあるため、来季の始動には完治して合流できそうなのが朗報。身体能力を生かして守るタイプではないので怪我の影響も小さいと思われる。ワールドカップエリクセンとの共闘が見られれば、それほど美しいものはない。

 

 #46 Matteo Gabbia

 今季は負傷が少なく、招集外は3試合のみ。CBのバックアッパーとして常に準備ができていた。特に1月のトモリ、ロマニョーリ、ケアーの3人を欠いた時期はカルルとのコンビでローマに勝ち、コッパ・イタリア準々決勝進出にも貢献した。前への強さやビルドアップ能力はセリエA下位であれば十分に試合に出場できるポテンシャルを示しており、ローンに出して経験を積ませたいが、CLでのクラブ育成枠の問題もあって放出しづらいのが難しいところだ。

 

 

RSB

 

 #2 Davide Calabria

 今季は11月の代表合宿でふくらはぎを痛めて13節から19節まで欠場。その間に今季の4敗の内3敗を喫したのは偶然か否か。多くの試合で腕章を巻き、試合毎に変わるビルドアップの立ち位置に対応した。大外よりも内側でのプレーの方が好印象でゴールを急襲する動きもできる。決定力が上がれば5点は取れる。対人守備は昨季の方が安定感があり、代表定着を狙うならより高いレベルを求めたい。

 

 #14 Andrea Conti

 DFラインに20節のローマ戦で12分だけ出場。その後、サンプドリアにフリートランスファーで移籍。サンプドリアでは移籍直後は出場機会が多く、得点も決めたが最終的にはほとんどがベンチだった。

 

 #25 Alessandro Florenzi

 序盤戦はサレマの控えとして起用されたがそれほど活躍できず、1回目の内側側副靭帯損傷の手術の復帰後からカラブリアの控えとして起用され始める。16節のサレルニターナ戦からコンディションと連携の向上が見受けられ始めると、25節のサンプドリア戦、29節のエンポリ戦では左サイドバックも見事に務め上げ、後方からの配球で存在感を発揮した。2得点はどちらも印象深く素晴らしい得点だった。ピッチ外でも存在感が抜群で、ムードメーカーとしても鼓舞役としてもアツいハートで全方位から信頼を得ており、ローンでの加入だが買取オプション行使が濃厚。

 

 #91 Luca Stanga

 DFラインに離脱者が相次いだ1月の公式戦5試合にベンチ入りしヴェネツィア戦に右サイドバックとして2分間のセリエAデビューを果たしたプリマヴェーラのカピターノ。本職はCBながらプリマヴェーラではRSBでもLSBでもプレーしている模様。

 

LSB

 

 #5 Fodé Ballo-Touré

 どちらもほとんど出場していないがセネガル代表のアフリカネーションズカップ優勝との2冠を達成したラッキーボーイ。SBとしては大外を走る能力に長けているが、内側でのプレーや配球能力が低く、ビルドアップの穴になってしまった。能力が発揮されたのはリード時のウイング起用で、スピードと推進力でボールを運びファウルを貰い時間を稼いだ。しかし、優先度は低いため退団濃厚。

 

 #19 Theo Hernández

 チーム最多の出場時間を記録し、全公式戦で5G10Aを達成した。今季もポジティブトランジションの走りや持ち運びで脅威を与えると同時に、レオンを生かすために内側でのプレーも体得し、世界でも屈指の左サイドのユニットとなった。終盤戦では対人守備やカバーリングなどにも丁寧さや安定感が出てきており、調子の波やムラっ気がなくなれば世界最高のLSBになれる。EUROでの体たらくの後に3バックを採用したフランス代表のネーションズリーグ優勝の立役者にもなり、兄弟揃ってのワールドカップ出場も濃厚となった。2回退場したが、インテル戦のタクティカルファウルは仕方ないが、ローマ戦のような無謀なチャレンジはやめていただきたい。

 

DM

 

 #4 Ismaël Bennacer

 今季は大きな離脱がなくコンスタントに試合に出場することができた。昨季は安定しなかったコンディションもアフリカネーションズカップからの復帰以降は、長所の一つであった出足の鋭さやアグレッシブなタックルも頻繁に見られるようになり、プレス耐性、展開力、ミドルシュートと1年目後半のプレーリズムが戻ってきた。24年までの契約を延長する準備中。

 

 #8 Sandro Tonali

 ローン加入の昨季は不完全燃焼に終わったが、自ら減俸を提案し愛するミランへの完全移籍が成立すると、今季は開幕からチームの心臓として躍動。怪我無くチーム5位の出場時間、チーム2位の出場試合数を記録し、守備ではハイプレスとスペースのカバーを使い分け、デュエルでも進化。インサイドハーフの起用が増えた終盤戦はラツィオ戦とエラス・ヴェローナ戦でインクルソーレとして逆転弾を決めてスクデットの立役者となった。これからはミランだけではなくアッズーリの未来も背負う。

 

 #41 Tiemoué Bakayoko

 ガットゥーゾ時代以来の再加入を果たしたが、怪我とコンディション調整で序盤戦を無駄にし、46分以上出場したのがべナセルとケシエがアフリカネーションズカップで離脱した1月の2試合のみで、終盤戦は10分しか出場がなかった。鈍重なプレーリズムとビルドアップの技術不足は現在のミランにミスマッチで、強みのボール奪取も発揮できなかった。2年ローンの打ち切りが濃厚。

 

 #79 Franck Kessié

 昨季の大活躍から東京五輪期間中の契約延長を匂わせる発言でミラニスタを喜ばせたが、ドンナルンマ、チャルハノール同様に過度な要求により交渉がまとまらず、サン・シーロでブーイングを浴び続けるシーズンになり、昨季のような存在感は消えた。それでも、ピオーリは重要な戦力として起用し続け、トップ下は一つのオプションとして機能した。バルセロナ移籍内定の噂が出始めてからは露骨に状態が上がり、終盤戦はアンカーとしてハイパフォーマンスを見せてスクデットに貢献。クルヴァ・スッドとも仲直りをして去ることに成功した。

 

OM

 

 #10 Brahim Díaz

 昨季の終盤戦に活躍し、今季からは買取オプション付き2年ローンで加入。全部で40試合に出場し4G4A。しかし、そのうち4G2Aは10月のCovid-19感染まで。感染以前と以降では大きくパフォーマンスに差が出てしまった。感染以前はボールをピックアップしてアタッキングサードへ運びチャンスを創出しスタートダッシュに大きく貢献。感染以降はプレーに関与する機会自体が減少しプレーの質も低下。しかし、24節のインテル戦など随所で流れを変えるプレーを見せた。来季はトップ下だけでなく、ウイング、インサイドハーフでも活躍が求められる。

 

 #27 Daniel Maldini

 トップ下と左ウイングを中心に今季は全部で13試合239分に出場し、6節スペツィア戦ではセリエA初先発初得点を記録した。育成年代で通用していた技術がトップチームでは全く見られないので、守備意識の高さ、身長などを踏まえるとクルニッチをロールモデルにしつつ、偉大な父の遺伝子を生かしてSBにも挑戦してみてほしい。

 

 #33 Rade Krunic

 9月の代表合宿での負傷で7試合を欠場した以外は全試合に帯同し、中盤の全ポジションだけでなく、CFとしても右サイドバックとしても出場した陰のMVP。終盤戦はトップ下とインサイドハーフどちらにも対応でき、攻守に強度高くプレーできる存在としてレギュラーを掴んだ。特別な才能はないが、チームのために、ピオーリが求めるプレーをどのような使い方でも体現してくれる特別な存在。

 

RWG

 

 #7 Samu Castillejo

 2節の2分間の出場がお別れの挨拶かと思いきや、売却交渉がまとまらずに残留。構想外ながらもトレーニングには参加し続け、5試合で出場機会を得た。8節のエラス・ヴェローナ戦では逆転勝利に大きく貢献し、試合後の涙がミラニスタの心を打った。テオ、ブラヒムとの仲良しスパニッシュトリオも今季で解散。さようなら。

 

 #30 Junior Messias

 序盤戦はコンディション調整と負傷で後れを取ったが、復帰後は最終節以外全試合に出場した。サレマとRWGの先発を分け合い、32試合6G3Aを記録。スペツィア戦のゴールが幻にならなければ…ブラジルからイタリアに渡り、家電を運びながらアマチュアでプレーをし、セリエDのクラブに入団し、一段ずつステップアップし、30歳にしてたどり着いたミランではCLデビュー戦で初得点を奪い、終いにはスクデットを獲得。神を信じて真面目に努力を積んできた人間を神は見放さなかった。素晴らしい夢物語をありがとう。

 

 #56 Alexis Saelemaekers

 全試合に帯同し、チームトップの46試合に出場したが、2列目の選手としては物足りない2G3Aしか数字を残せなかった。守備意識、運動量、敏捷性、近距離でのコンビネーションは良いが、決定力を含むアタッキングサードで脅威を与える能力がアタッカーとして不足しているという課題が改善されない。WBとしてベルギー代表のメンバーに定着し始めたが、ミランにはデ・ブライネもアザールルカクもいないので大外より内側でのプレーの方が良く見える。ミランにも近くにイリチッチのようにタメを作れる選手がいれば大外でも輝けるかもしれない。オフシーズンの現在は放出の噂もあり、残留すれば来季は勝負の1年になる。

 

LWG

 

 #12 Ante Rebic

 ワントップとして序盤戦のスタートダッシュを牽引したが、足首と屈筋の負傷とコンディション調整に苦しんだ後半戦は先発出場はなく、1100分で3G2Aという不甲斐ない結果に終わった。終盤戦は状態が良くなり、途中出場で強度を上げる役目を全うしラストスパートに貢献した。昨季までも離脱は多かったが結果も残していただけに、今季の成績は放出候補に含まれても仕方ない。

 

 #17 Rafael Leão

 2年の辛抱から覚醒した今季のセリエAMVP。42試合14G12A。正対すれば止められないドリブルで敵を抜き去り数多くのチャンスを創出。私が昨季の総括で期待した10G10Aを本当に達成した。波が小さくなり、継続性も身に付けつつある。来季は更なる決定力の向上と外切りプレスの精度向上に期待。契約延長できますように。

 

CF

 

 #9 Olivier Giroud

 たった100万€で加入したサン・シーロ男であり、ビッグゲーム男であり、9番の呪いを葬った男。前半戦は何度か怪我があったが、後半戦はほぼ先発出場しセリエAでは11G4Aを記録した。ターゲットマンとしてロングボールを競り合ったり収めたり、最前線からのプレスだけでなくプレスバックも怠らない献身的な役回りをしながらゴール前で最適なポジションを取っていた。24節インテル戦のドッピエッタは歴史に残る活躍となり、ワンタッチゴール以外の得点はその逆転弾だけ。セリエAデビューシーズンで2桁得点を記録した最年長選手になった。

 

 #11 Zlatan Ibrahimovic

 序盤戦はアキレス腱、後半戦は膝の問題に悩まされたが、現在でも技術や視野は別格で、セリエA先発11試合で8G3Aを記録した。ミランに再びタイトルをもたらすために復帰すると、自分の身体に鞭を打ちながら若手の自立と成長を促し、自身がピッチにいなくても闘えるチームに進化させて有言実行を果たした。後半戦は膝の靭帯が無い状態で、痛み止めの注射と膝の水抜きをしながらプレーをしていたという驚愕の真実が明かされた。パレード後に手術を行い、来季はワールドカップ中断の再開から復帰する予定と言う。

 

 #64 Pietro Pellegri

 ポテンシャルを評価されてモナコからローンで加入したが、怪我が多いキャリア通り、6試合の出場に留まった。半年でローンを打ち切り、ジェノア時代の恩師ユリッチが率いるトリノに加入すると9試合に出場し1得点を挙げた。長身ながらスピードがあった。

 

 #93 Emil Roback

 プリマヴェーラスウェーデン人。コッパ・イタリア1試合に2分間出場。プリマヴェーラではRWGかCFを務めているが3点しか取れていない。

 

 #22 Marko Lazetić

 ペッレグリに替わる第3CFとしてレッドスターから加入したが、2004年生まれの18歳なのでまだセリエAを戦う準備はできておらず、コッパ・イタリア1試合の4分間しか出番を得られなかった。同様に18歳でイタリアに来たヴラホヴィッチのような成長を期待したい。

 

監督

 

 Stefano Pioli

 今季も4-2-3-1でハイプレスと速攻を基盤にしたスタイルを踏襲しながら、メニャンの加入によりビルドアップのバリエーションを増やすことに着手し、相手によって毎試合異なるビルドアップの配置と攻め筋に挑戦した。守備はマンツーマン色が濃くなり、中盤の配置を相手に合わせ、敵陣のハイプレスだけでなく自陣でもマンツーマンの対応を見せるようになった。最大の得点源は今季も速攻で、ウディネーゼに勝てなかったようにアタッキングサードブロック崩しは不得手のまま。無理に中央に突っ込んでカウンターを受ける場面が少なくないので、来季は焦れずにボールを横に動かして穴を作れるようになりたい。

 アフリカネーションズカップが終わるまでは常に主力を欠く状態だったが、カルルとクルニッチを駆使して乗り切った。ミランとともに自身も成長し初めてのタイトルを獲得した。昨季の総括に書いた「ミラン復権の道は名将への道」を地で行っている。

 

 

来季の展望

 

 ピッチ内外で収益を上げてミランの財政を大きく立て直したエリオットからスポーツクラブ経営の実績があるレッドバードにオーナーが変わることが発表された。とはいえ、方向性が大きく変わるわけではなく、エリオットで成功した路線を継続し、ステージに合わせた予算の調整がなされるものと見られている。

 最優先課題はメガクラブから熱視線が注がれるレオンの契約延長。戦術兵器となったレオンにはケシエにも出さなかった年俸700万€でも更新しなければならない。レオン自身が残留を希望しているようだが、そこに頼ってはいけないと思う。

 補強はロマニョーリが抜けるCB、フロレンツィの買取、テオの控え、ケシエとバカヨコが抜ける中盤、得点を生み出すRWG、中堅のCFが求められる。CBの候補はボトマンかブレーメルとなっているが、トモリとカルルが鉄板でケアーも復帰できる現状、両者とも3000万€以上かかるのは手が出しづらい。セリエAとマンツーマンへの適応に全く問題がないブレーメルなら欲しいが、プレミア勢にオークションで勝てるわけがない。現実的なのはカルルのようにSBとの兼任も可能な左利き。気になるのはELで活躍したレンジャーズのバッシー。

 中盤はダブルボランチ+トップ下、アンカー+インサイドハーフ、どちらの形でもフィットして、ワークレートが高い選手が求められる。候補筆頭のレナト・サンチェスは怪我が多いようだが、価格的にも質的にも欲しい。ローン組で言えば、トリノでユリッチのマンツーマンを経験したポベガは確実にローンバックされると思われ、アドリはプレシーズンでピオーリがチェックするだろう。

 RWGはベラルディ、ザニオーロ、デ・ケテラーレの3択の模様。メシアスの買取も確実になってはいない。上を目指すためにはお金をかけて良いポジションではある。3人とも大外でも内側でもプレーできると思うが、左のレオンとテオを生かすための右サイドと考えると、サイドからゲームを作れて、ブロック外からゴールもアシストも狙えるキックを持つベラルディが良いと思う。個人的にはディ・マリアが欲しい…

 CFはリヴァプールからフリートランスファーでオリギの加入がほぼ確実なのは楽しみだ。怪我が少なくないのは気がかりだが、プレミアリーグからセリエAに来た選手のほとんどは活躍しているし、リヴァプールでプレッシングを体得しているのも安心できる。そして、何より、今季対戦した2試合で印象的なプレーをしていたことが大きい。

 放出は既にハウゲの買取義務による完全移籍が決定しており総額1500万€を得たとされている。去就未定で換金要員になるかもしれないのはサレマかレビッチだが、逆に言えばそれしかいないし、ローン組のカルダーラとドゥアルテも小銭程度にしかならない。

 

 CLはポット1に入るが、結局はくじ運次第。それでも、絶対にグループステージは突破したい。来季はワールドカップの中断で過密日程になることが予想されることから、CLとの連戦にも耐えうるスカッドを組めることを前提にすると、セリエA連覇を最大の目標に、CLベスト8、コッパ・イタリア優勝も狙いたい。

 

 

 最後はセリエAのゴール集でお別れです。読んでくださった方、ありがとうございました。お疲れ様でした。そして、ミランに関わる全ての皆さま、おめでとうございます。


www.youtube.com

 

 

                                    Forza Milan!!